2020年1月1日、日米貿易協定及び日米デジタル貿易協定が発効した。日米貿易協定の中で、日本は牛肉・豚肉、乳製品をはじめ約600の貿易品目の関税を撤廃あるいは削減することを約束した(2018年の米国からの輸出額のうち72億ドルに相当)。
日本政府は2019年10月29日、「日米貿易協定の経済効果分析」を公表した。これによれば日米貿易協定によって、日本の実質GDP水準は約0.8%増加し、約4兆円の押上げになるとした。しかしこの数字は、日本が獲得できなかった米国への自動車・部品関税の撤廃を前提としており、試算として検討する以前の数値であろう。
政府は、同じく10月29日、米国からの農産物関税の撤廃・削減による国内農業への影響試算として、「日米貿易協定とTPP11を合わせた農林水産物の生産額への影響について(試算)」も公表している。これによると、合計で603~1096億円の生産減少額となるが、TPP協定の妥結時から政府は一貫して「対策を講じるため影響はゼロである」と説明している。
政府の試算の妥当性については、①対象となるのは「関税率10%以上かつ国内生産額10億円以上の品目」に限られており、品目数で言えば33品目のみである(うち農産物は合計19品目のみ)こと、②影響試算を算出する際の経済分析モデル(GTAPモデル)についても専門家からこれまでも問題点が指摘されている、という点から、現実的に妥当な数値になっているかどうかは留保するべきだろう。
一方、政府が日本全体への影響試算を出し、協定の国会審議が始まった2019年10月以降、各道県で独自の試算が順次発表されていった。2020年2月19日現在、17の道県がその数値を公表している(下記地図参照)。各道県の試算も、基本的に上記の政府の試算項目・算出方法に準じているため、結果の金額については留保が必要であろう。最も影響を受ける北海道では、全国最大の影響額となる235~371億円となったが、それでも農家の中には「国や道の想定は甘い」と疑問視する声もあがっているという(日米協定と農業 甘すぎる道の影響試算」北海道新聞 2019年11月24日)。
こうした意見に私たちも賛同するものであり、政府・各道県の試算を鵜呑みはできない。しかしそれでも、各県が独自で算出した影響試算を一元化し、比較検討することによって、どの地域が最も影響を受けるのか、どの分野(品目)に影響が出るのかという強弱は理解できる。そのような主旨で、当センターでは各道県が公表した影響試算をとりまとめ多くの皆さんと共有したい。なお、この情報は新たに試算を公表した都府県が確認されれば随時更新していく予定である。