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気候危機は年々深刻な気象災害を世界にもたらすようになっており、対策の緊急性は増してきています。

しかし、その緊急性を免罪符にするように破壊的な「脱炭素」産業が世界で広がっています。特に電気自動車や再生可能エネルギーの普及に必要な鉱物資源を採掘・採取するための産業界は現地で破壊的な活動を行なっていても「脱炭素社会に貢献している」ことを謳って「グリーン」な企業であることをアピールするようになっています。

一方で、気候危機対策を急がせる環境活動などの中では破滅的な未来予想図を描くことで行動を促そうとする団体が少なくありませんが、上記のような企業の進出に伴い、あまりに破滅的な未来予想は一部の環境・人権問題を軽視することの免罪符をより強力なものにする効果をもたらしています。

それどころか、環境活動家の中にはグローバルな気候危機対策を進めるためであれば、一部の地域における限定的な破壊は大事の前の小事であるかのような発言さえも散見されるようになっています。

そんな中、ニッケル採掘などの「脱炭素」に向けた採掘行為が最も急ピッチで進められようとしているアジア太平洋の運動体はアジアの人びとが世界のために犠牲にされることに抗い、コミュニティの「NO」と言う権利を尊重するとともに、気候危機を訴える諸団体にも連帯を求める国際宣言を発表しました。

PARCは、「エネルギー移行のための鉱物採掘に関するアジア太平洋ネットワーク(MET-AP)」の立ち上げ当初メンバーとして宣言の起草に参画し、賛同の署名をしました。

この宣言では下記の点が求められています:

  1. 先住民族に関わらず、採掘に影響されるコミュニティの自由意思による事前の十分な情報に基づく同意(FPIC)の権利とコミュニティの断る権利を認めること
  2. 例え気候危機対策などの名目であれ、採掘・採取を国際的に禁止する保護区を設定すること
  3. まやかしの「責任ある採掘」という謳い文句によってコミュニティをたぶらかすのを禁止すること
  4. グローバル・ノースが鉱物需要を最小限にとどめることを最優先事項とすること
  5. 気候対策におけるデュー・ディリジェンスを強めるとともに拘束力のある罰則規定を設けるこ

 


(以下、宣言の全訳)

COP28に向けたアジア太平洋宣言
アジア太平洋地域のエネルギー転換におけるコミュニティの権利、採掘禁止区域、正義を求める

2023年12月1日

インド、オーストラリア、インドネシア、フィリピン、フィジー、パプアニューギニア、タイ、マレーシア、日本の34団体は、COP28に集まる世界の指導者たちに対して、それぞれの地域における移行鉱物の採掘がもたらす影響を取り上げることを求めます。

私たちは、再生可能エネルギーへの速やかな移行を提唱する一方で、特にグローバル・サウスのコミュニティへの不均衡な負担を回避する必要性を強調します。これらのコミュニティは、排出の責任が最も小さいにもかかわらず、すでに気候危機の実害を受けるに至っています。私たちは、鉱物採掘・加工施設による新たな「犠牲地帯」の出現を含め、アジア太平洋地域のコミュニティ、労働者、生態系への影響に懸念を表明します。これは特に、再生可能エネルギーや低排出技術に用いられるリチウム、コバルト、ニッケル、レアアース、銅などの鉱物に関係するものです。

金属採掘は、世界的にも私たちの地域においても、自然破壊、世代を超えた放射線障害、水質汚染、人権侵害など、世界で最も汚染をもたらす産業の一つとして際立っています。加えて、鉱山廃棄物の海洋投棄という危険な慣行や、海洋を深海採掘のために開発しようとする現在の動きは、健全な海洋環境と沿岸コミュニティへの脅威を増大させています。

インドネシアとフィリピンは、EVバッテリー用のニッケル鉱石の主要な生産国であり、両国ではニッケル採掘・製錬の増大によって、コミュニティや生態系に有害な影響がもたらされています。しかも、それらはしばしば化石燃料を動力源として行われます。フィリピンでは、パラワン島とシブヤン島のコミュニティが、ニッケル採掘活動から淡水河川水系と農地を守るために、パンデミック中にもかかわらず人びとのバリケードを立ち上げてきました。大気汚染や汚染された土壌はコミュニティに害を及ぼし、採掘は森林や農作物を荒廃させ、鉱山廃棄物は海を汚染して漁業を危険にさらします。

オーストラリアでは、36 以上の移行鉱物鉱山が操業中の上、55 の鉱山が計画されており、拡大する鉱業は生態系とコミュニティに負担をかけています。現在、中国国外で主要なレアアース酸化物生産者であるオーストラリアのライナス・レア・アース社は、最もエネルギー・排出集約的で危険な処理施設をマレーシアに移転して、100万トンを超える放射性廃棄物を現地に残し、同国での安全でないレアアース開発の火付け役となりました。先住民族の権利を保護する法律が不十分で、アボリジニの遺産に対する保護措置も不十分であるにもかかわらず、オーストラリア企業は海外へと採掘拠点を拡大し、「グリーンな」移行という名のもとにコミュニティの抵抗を無視しているのです。

再生可能エネルギー技術への需要が、新たな鉱山や有害な処理工場の開設あるいは既存の鉱山や工場の拡大・拡張を通じてコミュニティ、海洋、河川、森林、生態系を犠牲にすることを正当化する理由に用いられてはなりません。

1. 私たちは、自由意思による事前の十分な情報に基づく同意(FPIC)の権利と、破壊的な採掘および採取のプロジェクトに対して「NOと言う権利」において、コミュニティを支持します。FPIC は国連先住民族の権利宣言 (UNDRIP) によって認められた先住民族の権利であり、国内法に明記される必要があります。 「NOと言う権利」は、あらゆるコミュニティが自分たちの土地や生活に対する採掘・採取開発に反対して拒否する権利を求める世界的な運動として成長を続けています。

2. 私たちは、文化的・生態学的に重要な地域や、海洋のようにすでに大きな負荷を受けている生態系について採掘・採取禁止区域の設定を提唱します。生物多様性が豊かで、きれいな水、気候調整、土壌の維持など不可欠な生態系サービスを提供する自然地域や生息地を保護することは、生態系と人間の健康を維持するために、地球規模でも地域規模でも非常に重要です。

3. 私たちは、「責任ある採掘」という誤情報の企てと、採掘認証や自主基準、関連する監査スキームを含むコミュニティの同意を迂回する採掘を拒否します。重点は、公正なエネルギー転換の創出に置かれなければなりません。それは、人権、自己決定権の尊重、既存の国際条約の施行、拘束力のある国および/または地域法とともに、そしてまた、既存の規制や法的協議プロセスを遵守するよう採掘プロジェクトに対して監督・要求することができ、かつ説明責任、そして最も重要なことに、同意を確かなものとする司法機関や監査・監督機関とともに実現されるものです。

4. 私たちは、グローバル・ノースにおける鉱物需要を最小限に抑え、新技術の製造による排出を削減する気候解決策を優先することを要求します。電気バスや非電動手段による交通への投資、歩行者や自転車に優しいインフラの促進、修理可能な小型車両の使用、エネルギー効率の向上、循環経済システムの確立。これらの解決策は、ゼロ・エミッション目標や持続可能な交通手段に合致し、地域経済を活性化します。気候正義を実現する鍵となるのは、私たちの生産・消費パターンの不可欠な変革であり、政府や採取産業がとる「従来通り(ビジネス・アズ・ユージュアル)」な姿勢を拒絶することです。

5. 私たちは、気候変動交渉担当者に対し、人権および環境権に関するデュー・ディリジェンスの義務化、契約、財務および所有権の透明性の向上、ならびに移行鉱物の責任ある調達と汚染および有毒/放射性廃棄物の管理について鉱業企業に責任を負わせるメカニズムの改善に取り組むよう求めます。

私たちは、企業、金融機関、投資家、政府に対し、これらの対策を実施することで、クリーンで公正かつ公平なエネルギー転換を確実なものとするよう強く求めます。
私たちは、クリーンエネルギーの提唱者と気候正義の仲間たちが、それぞれの組織やネットワークの中で、私たちの地域からのこれらの要求に共鳴して、気候変動プラットフォームに対する集団的行動を促進することを強く願います。

(以上)

※宣言の原文(英語)および署名団体の一覧は以下で読むことができます。
COP28 Asia Pacific Statement | Publish What You Pay

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