日EU経済連携協定は、2017年7月6日に「大枠合意」に達し、2018年7月17日に署名された。2013年4月に第1回目の交渉会合が開催されて、5年3カ月の年月を有した。世界のGDPの約3割、世界貿易の約4割を占める日EUによる世界で最大級の規模の自由な先進経済圏が新たに誕生したと、日本政府はこの協定を位置づける。 しかし日EU協定の交渉の間、世界の貿易をめぐる状況は激変した。米国ではドナルド・トランプ大統領の誕生に伴い、TPP交渉から米国が離脱。TPP協定は大きく姿を変えている。またEUと米国によるTTIP交渉も、欧州市民社会からの激しい抵抗にあい頓挫した。さらにEUは、カナダとCETA協定を締結するも、投資家対国家紛争解決制度(ISDS)が批准・発効の障害となり、現在は暫定発効をしているという状態である。
日EU経済連携協定はTPP以上の秘密交渉であり、最終合意に至るまで日本ではほとんどの情報が開示されてこなかった。報道では、チーズやワイン、チョコレートなどEUからの農産物や加工品の関税が下がるため消費者にはメリットであり、一方日本からは自動車の輸出が拡大できるという、TPPの際とまったく同じような構図で交渉結果が描かれてきた。
しかし、実はEU側が日本に求めてきた分野・項目は農産物の関税撤廃にとどまらず、非関税障壁(規制や規格などのルール)を含む、実に多岐にわたるものである。これらは日本の産業や地域経済に長期的に影響を及ぼすことになろう。日EU経済連携協定の全体像とその本質が、政府からもマスメディアからも伝えられていないことに、私たち市民社会組織は大きな危惧を抱いている。しかも、日本政府は最終合意からわずか3カ月後に始まる2018年秋の臨時国会にて、日EU経済連携協定の批准を計画している。日本政府が交渉の最終テキストを公開したのは署名直後の2018年7月18日であり、幅広い分野の膨大な量の協定文を読み込み、分析するための期間としてはまったく不十分である。TPP協定およびTPP11(CPTPP)の審議の際にも、拙速でごく限られた分野の審議しかなされなかった。日EU経済連携協定の批准審議において、同じことが繰り返されないことを、私たち市民社会は強く要望する。
本レポートでは、日欧EPAの全体像をふまえつつ、特にEU側が最大の関心事としてきた非関税措置の撤廃についての問題を報告する。