2019 年 9 月 26 日、日米首脳はニューヨークで開催された国連総会のサイドラインで、「日米貿易協定」及び「日米デジタル貿易協定」の最終合意に達した。協定文そのものは完成せず署名にはこぎつけられなかったが、代わりに日米首脳による共同声明に署名がなされた。
約1か月前の 8 月 25 日、フランス・ビアリッツでの G7 の際に「大筋合意」に達していたこの協定は、「関税分野(農産品、工業製品)」に加えて「デジタル貿易」を対象としている。交渉の開始当初、日本政府は日米貿易協定を「物品に限った TAG 協定」と強弁してきたが、今回の合意においてデジタル貿易が含まれることで、「TAG=物品貿易協定」などは存在しないことが改めて明らかになった。しかも、この協定は交渉入りを決めた 2018 年 9月の時点から二段階方式の交渉が想定されており、今回の合意はその第一段階に過ぎない。米国側はすでに、今後の交渉を継続し、包括的な協定を目指すとしており、今回の合意に加え、今後も多くの分野が対象となることが予測される。現在の世界の通商交渉の中では、「デジタル貿易」は最重要課題の一つであり、特に米国産業界は TPP や NAFTA 再交渉などで、この分野に対する要望や提案を強めてきた。一方、中国、EU、そしてインドなど新興国、途上国はそれぞれ独自のルールを推進しようとしており、どの貿易協定でも大きな対立を生み出している分野である。
一方、日本における「デジタル貿易」に関しての関心の低さは際立っている。直接的な影響が見えにくい分野であるものの、デジタル貿易は人権やプライバシー、差別や犯罪、倫理、環境、そして民主主義と市民社会スペースの問題にも影響する幅広い分野である。本レポートは現時点での「日米デジタル貿易協定」の問題点を分析する。マスメディア、国会議員、一般市民がこの課題への理解と関心を高め、日本社会にとって必要・有効でバランスのとれた政策を実現していくための一助となれば幸いである。
2019年9月30日
内田聖子