
フィジー共和国ナモシ郡ナルクニブア集落(photo:FoE Japan)
2025年2月7日、PARCも参画する金融の社会的責任格付けサイトFair Finance Guide Japanでは、3つのケース調査のレポートを公開しました。
私たちの生活に欠かせない銀行。しかしそこに預けている資金がどのような企業に融資されているのか、私たちは充分に把握しているでしょうか。今回の記事では公開された3本のレポートの概要をお伝えします。
雲をつかむような開発計画~フィジー:ワイソイ銅鉱山および周辺開発の是非を問う
一本目のレポートでは、フィジーのヴィティ・レブ島の内陸部のナモシ郡で進行している鉱山開発事業ついてまとめられています。現地調査はPARCと国際NGO FoEJapanが行いました。
ナモシ郡の森は多くの固有種を育む生態系を形成しています。特に絶滅に瀕した鳥類の最後の楽園ともいえる場所で、絶滅危惧IB類に指定された種の生息も確認されました。それと同時にこの地域は19世紀に黄鉄鉱が発見されて以来、銅鉱床として注目されてきた地域でもあります。ただ、銅の品位が低く経済合理性が見合わないという理由で開発がされていませんでした。ところが、世界中で銅品位の高い鉱山が採掘されつくす中で、年々品位の低い鉱山の相対的合理性が高まってきました。フィジーの人口は100万人に満たず、自国の銅需要を満たすための大規模な鉱山開発は不要です。現在計画されている銅鉱山は、世界の銅需要が圧力となって検討されている場所と言えます。
鉱山開発を進める側は、大規模な露天掘り鉱床が及ぼす影響やテーリングダムの工法など、開発事業の詳細を住民に伝えていません。そればかりか本来住民へのコンサルテーションが義務付けられているはずの環境影響評価に関しても、すでに完了したものとして報告書が提出されてしまいました。このままでは先住民族の権利侵害、固有生態系への甚大な不可逆的破壊、最善の安全性技術の適用不足など、大きな問題をはらむ事業になることは明白です。
レポートではナモシ郡の人々が置かれている現状を詳細にまとめている他、この事業に参画する日本の日鉄鉱業株式会社と三菱マテリアル株式会社、水力発電事業に間接的に出資する中国電力株式会社に対し、投融資を行う日本の金融機関は被害が生じる前に事業撤退や抜本的な管理体制の改善を求めたエンゲージメントを行うべきであると指摘しています。
不満・不信感を助長する補償交渉 ~インドネシア:バホドピ鉱山及び製錬所計画を巡る実態
二本目のレポートでは、インドネシア中スラウェシ州モロワリ県バホドピ郡で広がる鉱山の新規開発・拡張計画について書かれています。
開発対象にされた範囲には以前から村人が生活を営んできた場所が含まれており、一部住民とは補償交渉がはじまっています。しかし提示された補償金額は国際基準から著しく低いものでした。さらに鉱山から南東約50kmにあるサンバラギ村では、鉱山計画とセットの製錬所の建設がアヌグラ・タンバン・インダストリ(ATI)社の請負で進められており、漁業に深刻な影響をもたらす可能性があります。鉱山計画によって周辺住民の生活水準が著しく低下する恐れが出ているのです。
この事業を進めるPT Vale Indonesia(PTVI)社とその親会社のヴァーレ(Vale)社には、住友金属鉱山株式会社と三井物産株式会社がそれぞれ融資と株式保有をしています。一連の開発で住民との協議・交渉に大きな問題が存在していることが明らかになるなか、日本の金融機関による住友金属鉱山並びに三井物産への投融資を続けている姿勢は、事実上二社のかかわる PTVI 社および親会社である Vale 社の人権侵害を容認していることに他なりません。
レポートではこれらの現状に加え、日本の金融機関各社が表明している投融資基準の問題についても指摘しています。
森林保護方針の裏側でいまなお続く森林破壊~グリーンウォッシュに加担する三菱UFJ
三本目のレポートでは、世界最大級のビスコースおよび紙パルプ生産企業の⼀つであるロイヤル・ゴールデン・イーグル・グループ(RGE)とRGEに資金提供を続ける三菱UFJフィナンシャル・グループについてまとめています。
RGEはこれまで、インドネシア国内での大規模な植林地開発にともなう森林破壊や周辺住民の土地に対する権利の侵害などに関与してきました。2015年にRGEは「持続可能な森林管理方針」を発表しましたが、それ以降も破壊的な森林施行に関与し続けていることがNGOの調査により明らかになりました。
2021年および2022年において、RGE グループのアジア・シンボル社の紙パルプ工場が、インドネシアの東カリマンタン州にあるバリクパパン・チップ・レスタリ社の木材チップ工場から原料を受け取っていましたが、木材を供給するサプライヤー三社が、合計37,105ヘクタールの天然林の破壊に関与していたことが判明しました。
日本とのつながりでは、RGE 傘下のエイプリル(APRIL)社が生産する紙製品が日本にも輸入されている他、三菱UFJフィナンシャル・グループが資金提供をしています。2024年に資金提供をした額は1億6,200 万米ドルになります。
レポートでは、三菱 UFJ フィナンシャル・グループに対し、木材(または森林)関連のセクター方針に基づき、RGE 傘下にある関連企業が違法な伐採や保護価値の高い地域における森林破壊に関与していないかどうか確認し、改善に向けて働きかけるよう要求しています。
私たちにできること
今回の発表されたレポートでは、いずれのケースも環境破壊や人権侵害等などの深刻な問題が引き起こされていました。日本社会で生きる私たちの暮らしは、途上国で起きている様々な社会問題と無関係ではないのです。
こうした問題を引き起こす企業に金融機関が投融資を避けることができれば、事態の悪化を防ぐことができます。そのためには消費者・市民である私たちが起きている問題を知り、声を上げることが不可欠です。フェアトレード商品や有機野菜を選ぶように、自分のお金の使い道や預け先の判断基準にすることもできます。事態を知る最初の一歩として、レポート全文に目を通していただければ幸いです。
※レポート概要と本文はそれぞれ下記のウェブページから見ることができます。
・雲をつかむような開発計画~フィジー:ワイソイ銅鉱山および周辺開発の是非を問う