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田中 滋(PARC事務局長)

初出:「PARC通信」Vol.10 2022年8月

現在、ジャマイカでは世界の海を守るための闘いが繰り広げられている―国際海底機構(ISA)の年次総会である。

ISAは国際海洋法条約に基づいて設置された国連機関の一つであり、公海の深海における採掘行為の取り締まりをその役割の一つとして担っている。

ところが、これまで深海での鉱物採掘はなかなか実現性の乏しいものとして考えられてきたために、その取り締まりには明文化された採掘規制が存在しない。そこへ、商業採掘の野心を掲げたベンチャー企業数社が攻勢を仕掛けたのだ。もし、来年夏までに対策が打たれなければ、ルール不在の中で人類共通の財産である海が一部のベンチャー企業の下で破壊されてしまうかもしれない。

というのも、ISA には「2年ルール」というものが設立当初より設けられている。そのルールが発議されたのであれば、ISA加盟国の総意として停止されない限りは発議から2年後には商業採掘許可を出さなければならなくなるのだ。 そして、それは2021年6月にカナダ資本のベンチャー企業TMC社の策略で発議されてしまった。

しかし、ISA事務局にはそれを止める議論を盛り立てることができるはずだが、その気がなさそうなのだ。

もし公海での深海採掘が始まれば、ISAには膨大なロイヤリティ収入がもたらされることになっているのだ。そしてISA事務局長のマイケル・ロッジは自らベンチャー企業の船に乗船し、投資誘導のためのPRビデオにも出演している関係である。事実として、ロッジはベンチャー企業の採掘計画が承認されるためにすでに様々な便宜を図ってきている。このような状況下で長年環境学者としてISAに勤めていた科学者らはISA事務局と一部ベンチャー企業との関係性を「羊の番を狼にさせるようなもの」と表現して抗議の辞職をしている。しかし、それでも深海採掘開始への勢いは止まらない。

ISA事務局に適正な管理・規制を任せることが絶望的な中、総会における国際海洋法条約加盟国の決議に世界の海の命運はかかっているのだ。そこで、仮に深海採掘によって海洋生態系が乱されたならば甚大な影響を受けると危惧されている太平洋の島しょ国はすでに抗議声明を出し、拙速な深海採掘を止めるためのモラトリアムを求めている。パラオ、フィジー、サモア、そしてミクロネシア連邦などの小国が世界に対して、海を守るように働きかけているのだ。

ここで、海を守るには何が最も有効なのか考えなければならない。採掘規制を定めて、加盟国で合意することは一定程度の環境基準を定めることになるので海を守る効果がゼロではないだろう。しかし、それは実は最低限の基準さえ守れば採掘をしても良いというお墨付きを与えることに他ならない。というのも、現在議論の対象となっている採掘基準のドラフトは様々な海洋環境学者が不十分な規制だと批判するものであるからだ。国際自然保護連合等の国際的な環境保護機関も強い規制を求めているのではなく、採掘のモラトリアムを求めているのである。

そこで日本の動きを見てみよう。日本もまたISAに代表団を派遣しているが、そこにも外務省は深海採掘への野心を掲げた経産省の外郭団体(JOGMEC)を引き連れている格好だ。果たして自らを縛るような規制枠組みを後押しするだろうか? 2022年7月21日の会合での日本代表団の発言内容を見てみると、日本はISAが採掘規制のガイドラインを作成する段階にあり、その制定を「全面的に支持する」とされている。どうやら代表団は本気で世界の海を守る気はないようである。

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