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鉱物採掘による環境破壊・人権侵害の現場調査を行なってきた採掘問題研究会では、新たな採掘現場と開発されようとしている深海資源開発に関する調査を開始し、最初の報告書をFair Finance Guideのレポートとして公開しました。

報告書「海より深い欲望-深海採掘への投資は海に何をもたらすのか?」

国の管轄を越えた海は人類の共同の財産であり、その資源は人類全体の利益のために活用されるべきであると1970年12月に「海洋法に関する国際連合条約(通称:国際海洋法条約)」にて定められた。それは漁獲などの海洋資源はもちろんのこと、海が持つ環境調整機能や文化的価値、そして海底に眠る鉱物資源も含めてのことである。ところが、いま一部の企業活動によって人類共同財産である海が危機にさらされている。

気候危機がより差し迫った現象として確認される場面が増え、世界中で早急に低炭素技術への意向が叫ばれるようになった。そのことは歓迎される一方で、低炭素技術の実現に必要とされるニッケル、コバルト、銅などの重要鉱物の需要は急速に高まり、これまで合理的とされていなかった採掘地さえも現実的に検討される時代へと突入した。そんな鉱物資源のフロンティアの一つが深海底鉱物資源である。

国際海洋法条約が結ばれたころにすでに深海に鉱物資源が存在していることは確認されていたが、当時から様々な技術開発が進み、海の底に眠る鉱物はもはや手の届く範囲のものになりつつある。しかし、それは目に見える鉱物に手が届きそうになったというだけであり、容易に姿を見せない深海生態系に対する理解は決して十分でない。

わかっているのは長年外部からの影響を一切受けず、独自の生態系をつくりだしている深海生態系が存在し、その性質は時に常識を凌駕するということである。例えば、深海の海綿の一種は最古のもので約11000年前から生存しているとみられる個体が確認されている。このような深海生物の調査は近年ようやく進歩が見られたものも多く、科学者らは今日もしばしば新種を発見する状況にある。深海底での採掘はこのような十分にわかっていない生態系に対して重機を持ち込んでかき乱すことである。

さらに、その採掘活動の影響は深海にとどまらないと見られている。深海採掘を支援する海表面での作業船活動は24時間体制で人間活動を海に持ち込むことになり、マグロ・カツオ類などの商業漁獲価値の高い魚種やオサガメ、ジンベエザメなどの絶滅危惧種の行動パターンへの悪影響も危惧されている。

温室効果ガスはオフセットできるかもしれないが、生態系はオフセットできない。貴重な生態系への不可逆的な影響が危惧されることから200を超える政府機関と900を超えるNGOらによって構成される国際自然保護連合(IUCN)は2021年9月に深海鉱物採掘に関する世界的なモラトリアムを求める決議を圧倒的多数で可決させた。

IUCN以外からも深海底を保全する声は高まっており、600名を超える海洋科学者らが国連海洋科学の10年(2021〜2030年)の間をモラトリアムとする声明に賛同を寄せている。

このようなモラトリアムは環境学者・海洋学者から支持されているだけでなく、BMW、Google、Patagonia、Philips、Samsung SDI、Scania、Triodos銀行グループ、Volkswagen、Volvoらが2021年に深海由来の鉱物をサプライチェーン上で使用しないことと、2030年までのモラトリアムを支持することを公表している。

環境面だけでなく問題として指摘されているのは深海での採掘行為が誰の利益になるものなのかという観点である。現在、深海資源開発を推し進めている企業の中には非常に不透明な手段で管理当局との契約を結んでいるケースも見られる。陸上での鉱物資源開発経験に照らし合わせるならばこのようなケースは人類共同の財産を一部の先進国やその資産家に独占させる流れをつくってしまい、途上国との格差を拡大させるものになってしまうことが危惧される。

具体的に、The Metals Company(TMC社)がナウル政府との合意で進めようとする深海資源開発はその実においてナウル国民の意思に反する開発でありながらも、表面上とりつくろっただけの方法で進めようとするものである。同社はトンガ、キリバスともパートナーシップを結んでおり、民主的に選ばれていない一民間企業の代表が国の代表として国際海底機構(ISA)の国際会議の場に出席・発言していることがしばしば目撃されている。

これらの国では海洋資源に依存し、高い文化的価値を置いている先住民族も居住しているが先住民族に対する事前の十分な情報に基づく合意(FPIC)が得ていることは十分に示されていない。しかも、公海への環境影響はそもそもこれらホスト国の先住民族に限られるものではない。

さらにOcean Mineral Singapore社は人口当たりGDPでは世界上位国に位置するシンガポールを「途上国」と主張することで獲得した契約でもって、米国に本社を置くLockheed Martin社やベルギーの浚渫事業者に利益をもたらすものであることが判明している。

このような不条理な海底資源開発を容認しているのが国際海底機構(ISA)であり、そのガバナンス体制はリスクの高い事業を取り締まるには極めて不十分である。にもかかわらず、日本で海底資源開発に取り組む企業少なくとも一社はIUCNの決議とは無関係にISAの定める海底資源開発に関わる規制枠組みが2023年6月までに合意されれば、その合意内容にのみ従った資源開発を継続するとNGOらからの質問に回答した。

国際枠組みによる取り締まり体制が十分でない中で、海底での不可逆的な影響や途上国の権利や国民を無視した開発を止めるにはESGリスクを十分に把握した金融の取り組みが不可欠である。UNEP-FIでは深海資源開発を海の持続可能な利用を実現するための「ブルー・エコノミー」からは名指しで除外しており、オランダのトリオドス銀行は金融機関として唯一深海由来の鉱物を使用しないことおよび深海採掘のモラトリアムを支持する国際声明に賛同している。

しかし、日本の金融機関はどれ一つとして深海資源開発に関して投融資方針を定めていない。取り返しのつかない事態を招く前に金融機関各社は下記の対策を講じるべきである:

※レポートの全文はFair Finance Guide Japanのウェブサイトよりお読みいただけます。
https://fairfinance.jp/media/55ppshcd/ffgj-deepsea-mining-2022.pdf

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