写真提供:FSPMI(インドネシア金属労連)
楽器の製造・販売や音楽学校の運営で知られるヤマハ株式会社が100%株式を保有するインドネシアの子会社PT Yamaha Music Manufacturing Asia(YMMA)にて不当解雇と見られる事案が発生しています。
YMMAは電子楽器の製造を行っているとされ、インドネシアのベカシ(首都ジャカルタの郊外)にて工場を操業している企業です。2024年下半期、YMMAでは労働者を代表する組合と2025年以降の賃金交渉が難航しており、労働者らは2024年10月4日に労働時間外に工場敷地外にて連帯感と士気を高め、労働者の総意をYMMA経営陣に示すための集会を開催しました。
現地当局の仲裁もあって、2024年12月3日にようやく賃金交渉は合意に至りました。しかし、合意締結後YMMA経営陣は労働者を代表する組合書記長のSlamet Bambang Waluyo氏と副書記長のWiwin Zaini Miftah氏二名に対して告発状を現地警察当局に提出しました。
組合は警察機構を利用した労働者への圧力行為に反対するべく、2025年1月21-23日の3日間にわたるストライキを予告しました。YMMA経営陣と組合はストライキ前日(1月20日)に合意書を交わし、YMMA経営陣は警察を通じた圧力行為を差し止めることに合意し、その合意が履行されることを条件に組合はストライキを延期することに合意しました。
しかしながら、2月11日に現地警察当局から上記組合員2名に対する捜査が継続されている旨が報告されました。さらに、YMMA経営陣はその警察当局による捜査を根拠として、2025年2月27日付で組合員2名を解雇しました。ところが、警察当局は告発を受けて捜査を開始する旨を示しただけであり、以降、組合員2名は今日に至るまでいずれも逮捕・起訴されていません。
2名が所属する労働組合は二人の解雇を不当解雇として労働当局に訴えた上、YMMA経営陣が1月20日の合意に反する行為をしたと受け止め2025年3月10-13日にかけて労働者249名がストライキに参加しました。
YMMA側はストライキを正当なものと認めず、ストライキに参加した労働者の賃金を日数分減額した上、ベカシの労働当局へ仲裁の申し出を提出しました。
当局を含めた三者協議は2025年4月と5月に計3回の協議を行い、双方の言い分が考慮された上で2025年5月23日にベカシ労働当局による判断が下されました。判断では全面的に組合側の主張が認められ、組合員2名の逮捕を不当逮捕とし、速やかな復職をYMMA経営陣に命じました。しかし、組合員2名の復職はかなっていません。
さらに、インドネシア労働省(Manpower Ministry)の労使関係委員会の調停も2025年9月3日に判決を下し、やはり解雇は不当であることを認めました。それでも組合員2名の復職はかないません。
上記の経緯にかかわる報道情報を下にアジア太平洋資料センター(PARC)では日本のヤマハ株式会社へ質問状を送付し、2名の復職がかなわない理由を問い合わせました。
■PARCより送付したヤマハ株式会社に対する質問状(PDF)
2025年9月29日にヤマハ株式会社からは回答が送られましたが、そこで説明されている内容はベカシ労働当局が三者協議にて事実として認定された解雇通達書類と矛盾する内容でした。
■ヤマハ株式会社による質問状への回答(PDF)
■ベカシ当局による三者協議の調停内容通達書 900.01.01.02/4083/Disnaker(インドネシア語/PDF)
ヤマハ株式会社としては解雇事由を、組合員2名が国家重要対象地域に位置するYMMA工場への交通を妨げ、複数回にわたる警告にも関わらず繰り返し交通を妨げたことと理解しているとの書面回答でしたが、三者協議の際に事実認定された解雇通達書はそのよう内容であると認められていません。労働者2名が警察当局による捜査中であることが理由としてかかげられており、その内容による解雇は不当であると認められています。
これはヤマハ株式会社が、実際の解雇文書の内容と異なる事由を解雇理由として当団体の回答にて示したことを意味します。それが意図的なものであったのかはわかりません。しかし、仮に日本のヤマハ本社がそのように認識していたとすれば、事実を誤認していることになります。自身の子会社をめぐる法的な争いについて十分に正確に認識できていない状況は、同社の海外拠点の管理が極めてずさんなものであると言わざるを得ません。
PARCでは引き続き労働者の状況を注視し、速やかに労働者の復職がかない、かつ、不当に逮捕されていたこの間の給与が支払われ、労働者による結社の自由(団結権)が認められるように求めていきます。