※録画記録が公開されました。当日資料はFoE Japanウェブサイト よりダウンロードください。(2024年6月6日最終更新)
気候危機対策としてニッケルやリチウムなどのレアメタル、また銅などの需要が高まっています。電気自動車や再生可能エネルギーの部品、バッテリー材料などの需要が伸びているためです。これまでも、海外の鉱山開発の現場では生活環境の破壊や抗議の声をあげる住民への弾圧など人権侵害が報告されてきました。様々な鉱物の需要が高まる中、鉱山の拡張や新規開発が相次ぎ、さらなる悪影響が懸念されています。影響を受けているのは、気候危機の影響を真っ先に受けてきたグローバルサウスの人びとです。本連続セミナーでは、脱炭素や公正なエネルギー移行の名の下で進む様々な鉱物の開発に抗う現場の人びとの声を聞きながら、私たちの生活と鉱物資源の問題について考えます。ぜひご参加ください。
第1回:バッテリー材料生産現場で脅かされる暮らし~インドネシアからの訴え
「生活の糧であるコショウ畑が奪われれば、貧しい生活に逆戻りしてしまう」と訴えるのは、インドネシアの南スラウェシ州でニッケル採掘の拡大に反対する住民たち。事業者による採掘の拡張計画に懸念の声が高まる中、軍や重武装した警察が抗議活動に派遣されたり、村内をパトロールしたりするなど、住民への人権侵害が報告されてきました。
この50年続くソロワコ・ニッケル採掘の開発現場では、住民が利用する水源の汚染や問題を指摘する先住民族の不当逮捕など、すでに深刻な人権侵害が起きてきました。現在、気候変動対策の中でバッテリー材料の一つであるニッケル需要の大幅な伸びが見込まれているなか、さらに多くの住民に影響が拡大しようとしています。
事業者のヴァーレインドネシア社には住友金属鉱山が出資し、親会社のヴァーレ社には三井物産が出資しています。ソロワコで採掘され、精錬所で生産されたニッケルマットは、1978年から全量が日本に輸出(※)されています。その一部は需要が高まっているバッテリー材料にも利用されています。
日本の私たちの生活を支えているニッケルの開発現場で、一体何が起きてきたのでしょうか。現地から住民の皆さん、また支援を続ける現地NGOスタッフに環境・社会・人権問題の実態を報告していただきます。ぜひご参加ください。
(※20%は住友金属鉱山の新居浜工場、80%はヴァーレジャパンの松阪工場に輸入。新居浜工場では現在、一部が電池材料にも利用される硫酸ニッケルの生産に使われている。電池材料はトヨタ自動車の電池子会社・プライムアース EV エナジー社やパナソニック社を通じて電気自動車大手のテスラ社にも納入されている。)
●日時
日時:6月5日(水)19:00~21:00
●会場
オンライン開催(ウェビナー)Zoom
※参加費無料、ご寄付歓迎
●申込
※終了しました
●プログラム(予定)
開催趣旨・・・松本 光<国際環境NGO FoE Japan>
南スラウェシ州ソロワコ・ニッケル開発の概要と問題点(逐字訳あり)・・・インドネシア環境フォーラム(WALHI)南スラウェシ
ロエハ・ラヤ地域の胡椒農家の声ータナマリア鉱区での探査・採掘活動で脅かされる生活(逐字訳あり)・・・ロエハ・ラヤ地域の女性、農民
日本NGOの取り組み・・・田中 滋<アジア太平洋資料センター(PARC)>
質疑応答
●共催
国際環境NGO FoE Japan、アジア太平洋資料センター(PARC)
●問合せ
本件に関する問い合わせは以下のフォームより、共催の国際環境NGO FoE Japan にご連絡ください。
https://foejapan.org/contact/
●参考情報
<イベントに参加したインターンの感想>
再生エネルギーへの期待は、単に気候変動対策だけが理由ではなく、新たな大きなビジネスともなっているゆえにますます高まっている。このような潮流を代表するのが、電気自動車へのシフトである。テレビのCMを見ていると、新しい電気自動車が次々と出てきていることが分かる。よく謳われるのが、「電気自動車は環境に優しく、地球に良い。」ということだ。その「環境に優しい」電気自動車のバッテリー材料として、需要が急激に高まっているのが、ニッケルである。ニッケルは、レアメタルの一つで、スマホやリチウムイオン電池に使われる以外に、最近では、電気自動車のバッテリー材料として注目されている。化石賞を受賞し続けている日本は、気候変動への真剣な取り組みが求められている中で、脱炭素化に向けて鉱山開発、バッテリー技術開発を推進し始めている。インドネシアとフィリピンは、ニッケル鉱石生産量の一位と二位であり、世界中の鉱山会社が開発を進めてきた。例えば、VALEは世界的大手の鉱山会社である。VALE インドネシアのソロワコ・ニッケル鉱山で生産されているニッケルは、全て日本に輸出されている。住友金属鉱山で電池材料に加工された後、トヨタ自動車やテスラ、パナソニックなどにバッテリーとして使われ、私たち消費者のもとへやってくる。
ただ、再生可能エネルギーをはじめ、企業の気候変動への取り組みのマイナスの側面が注目されることはほとんどない。再生可能エネルギーや電気自動車は、原子力発電や火力発電、ガソリンと異なり、いい意味で特別視され、十分に議論されないまま、もてはやされているのではないか。企業も、ただその波に乗っかり、従来と変わらず、利益追求しか見ていないように思える。そのことが、顕著に現れているのが、鉱山開発・採掘現場での環境破壊や環境汚染であり、住民の健康被害や土地収奪、暴力や脅迫による身体的・精神的苦痛である。ソロワコ鉱山は、VALEインドネシアと住友金属鉱山が開発・採掘をしてきた。ソロワコ鉱山近くで胡椒栽培を営んでいる女性農家の方は、こう述べている。「Valeがいる以上安心して農業ができないし、生活を送れない」と。また、別の男性農家の方も、自身への脅迫と免罪の可能性がある中で、「鉱山の中での私たちの生活はない」とVALEや住友金属鉱山の拡張に反対する姿勢をとっている。そのVALEや住友金属鉱山はというと、この声に真摯に対応しないばかりか、新たなニッケル採掘・製錬拡張に手をつけ始めている。過去に2度も、VALEのブラジルの鉱山ダムが決壊し、地域住民が200人以上も殺された事件が起きたばかりだというのに。住友金属鉱山は、住民ではなく、このVALEの言うこと為すことを信頼している。この姿勢は、環境汚染と人権侵害を容認していると思われても仕方がない。もっと言えば、VALEや住友金属鉱山にとって、この実際やっていることが、自身で発信している「サステナブルで全ての人々の人権を尊重している」会社像から乖離していることなど本当はどうでもいいのかもしれない。しかし、現地の人々にとっては、鉱山があるかないかは人生が大きく左右される大問題である。彼らの目には、何が価値あるものとして映ってきたのだろうか。そして、何を価値がないものとして、切り捨て、取り残してきたのだろうか。「大多数の暮らしが維持されるなら、少数の犠牲は伴っても仕方がない」という不人情な論理は、「サステナブル」や「気候変動対策」の名のもとでも実は廃れずにある。VALEや住友金属鉱山は、「サステナブルで全ての人々の人権を尊重している」という言葉を使うなら、本当の意味で誰からも信頼される企業になるために、実態をきちんと沿わせていくべきである。そのためには、自身の鉱山開発・採掘が引き起こしてきた事実と住民の思いをしっかり受け止め、更なる拡張をすることが本当に理にかなっているかどうかも含めて行動するべきだ。消費者の私たちも、言葉の裏で実際は何が起きているのかを冷静に見極め、同時に気候変動による甚大な影響を軽減するには、現在のような生活を続けていく選択肢はないことを受け止め、行動を変えなくてはならない。そうでなければ、私たちこそ、自己の矛盾に目をつぶる無責任な人間になってしまうだろう。(平間渚/PARCインターン)