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(Photo: NOAA)

(深海採掘ウォッチとは ※既読者は飛ばして下記へ)
海の底から鉱物を採掘する行為は長年SFの世界のものとして認識されてきましたが、もはやそんなことはありません。多くの人が知らない中で、一部の民間団体・企業が人類史上最大規模の採掘行為を始めようとしています。
採掘行為が始まれば取り返しのつかない環境破壊が行なわれるだけでなく、海を信仰と暮らしの基盤にしてきた人びとの尊厳までもが踏みにじられようとしています。
差し迫った危機に対してPARCは国際的な環境・人権NGOの集まりである深海保全連合(Deep Sea Conservation Coalition)の一員として活動を継続しています。「深海採掘ウォッチ」はDSCCとしての発信並びにPARC独自の調査・提言活動のアップデートとしてお送りしています。

【公海での深海採掘】
<国際海底機構で事務局長交代>
公海での深海採掘は国連海洋法条約の下で設立された国際海底機構(ISA)が管轄しています。長年、ISAの事務局長の座に座っていたマイケル・ロッジは採掘業界との癒着が危惧されてましたが、それに加えてあまりに高額な海外出張費(予算の数倍)や交際相手への仕事の斡旋などが報じられることとなりました。その結果、今年の事務局長選挙ではマイケル・ロッジが落選し、ブラジルの推薦したレティシア・カルヴァロが就任することとなりました。新事務局長は国連環境計画の職員を務めた経験もある環境分野に明るい方で、今後は環境規制に対する理解の強い方がリーダーシップを発揮してくださることを市民社会も期待しています。

また、カルヴァロ氏を推薦する力強いメッセージを発表したパラオ、ツバル、バヌアツ、サモアの代表団にも環境活動家らは賛辞が送られています。

 

<深海採掘の停止を求める国が32に!>
2024年8月5日現在、深海採掘の何らかの停止を公式見解として求めている国は32になりました。公海での深海採掘の全面禁止を求めているのは唯一フランスですが、期限を定めたモラトリアムを求めているのはパラオ、フィジー、サモア、ミクロネシア、ニュージーランド、スイス、カナダ、英国、メキシコ、ペルーの10カ国になりました。期限を設けることなく、予防原則に基づいた当面の停止を求める国はチリ、コスタリカ、エクアドル、スペイン、ドイツ、パナマ、バヌアツ、ドミニカ共和国、スウェーデン、アイルランド、ブラジル、フィンランド、ポルトガル、モナコ、デンマーク、ギリシャ、マルタ、ホンジュラス、ツバル、グアテマラ、オーストリアの21カ国になりました。

ツバルは2021年に深海採掘を目論む採掘企業と探査契約を結んでいましたが、深海採掘の実態が少しずつ明らかになると反対の姿勢へと一転し、今回のISA総会でも実に力強い開会の辞の中で当面の停止を求める声明を発表しました。また、同様に探査契約を結んでいる太平洋諸国の仲間たちにも後に続くように呼びかけました。
ツバルは気候危機と海面上昇によって最も危機に瀕した国の一つです。その国の人びとが海を汚して得られる鉱物は不要だと声高に発言したのです。決して気候危機を言い訳に深海採掘を進めてはなりません。

 

<深海底環境保全にかかわる原則の策定に反対する一部の国>
昨年度のISA総会ではチリを筆頭とする複数国の提案によってISAの環境保全責任に関する基本原則を明文化するための議論を開始する議案が提出されましたが、中国が頑なに議論を拒否したために、議論されることさえなく、総会が終了することとなりました。今年は中国が議案の承認し、いくつかの国が環境保全にかかわる基本原則の必要性を訴えました。しかし、継続的にこの議題を総会の議題とすることは中国、ガーナ、クウェート、カタール、サウジアラビア、ウガンダらによって強く反対されたためにISA理事会での議論となりました。ISA理事会は採掘利権を有する国が不当に多い構造になっているため、総会のような平場の議論はしにくくなっています。NGOらはこのことに抗議し、引き続き総会の議案として提出されることを強く求めます。

 

<ISAのガバナンス・レビューに反対する日本>
国際海洋法条約(UNCLOS)の第154条規定によって、ISAは5年に一度ガバナンスを再評価するためのレビューを行うこととなっています。前回行われたのが2017年であったため、すでに2年遅れています。これにはコロナ禍の状況が収まりを見せるまでガバナンスの評価が困難であるという説明がありました。しかし、すでに世界の大部分ではおさまりを見せていて、これまでの緊急事態対応も含めて十分に事業・ガバナンス評価を行うことのできる状況に来ています。ドイツはそうした状況を受けて、また、先般ニューヨークタイムズ紙などがISAにおける汚職疑惑について報じたことなども受けて速やかなガバナンス・レビューの実施を求める提案を行いました。

しかし、ガバナンス・レビューよりも採掘ルールの制定が優先課題であると日本を含む10ヶ国が抵抗しました。これら10ヶ国は無条件で5年に一度のレビューを命じるUNCLOSに反してたとしても採掘ルール作りを優先することを求めたことになります。民主主義と国際法を重んじる市民社会からは強く非難されました。

ISAの総会は以上の協議を中心として無事終了しました。今回の総会はISAとして極めて珍しく定足数に足りる総会でした。そこへ深海採掘に対する各国の関心の高さがうかがえます。その画期的なISA総会において深海採掘に慎重な事務局長が選任され、いくつもの国が採掘行為の凍結を求める発言をしたことは深海採掘の潮目が変わってきたことを意味します。今後も厳しい目でISAとそこでうごめく深海採掘に向けた企業の動きを監視していきますが、次回以降の「深海採掘ウォッチ」では日本による勝手な領海内での採掘について紹介をしていきます。お楽しみに!

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